ブルックスカレッジ

2017.08.28

怪我

怪我を予防する4大要素!練習バランス・ギア選び・練習日誌について

怪我を予防する4大要素!練習バランス・ギア選び・練習日誌について

ランニング障害を長年診てきた整形外科医であり、現役サブ2.5ランナーでもある諏訪通久先生に、「ランニングと怪我」についてお聞きしたシリーズ第3回目「怪我の予防と対策について」です。
練習と休養のバランスの話や医師から見た『シューズチェンジ』、そして練習日誌の重要性について語っていただきました。

諏訪通久先生のプロフィール

群馬県高崎市にある「榛名荘病院」に勤める整形外科医。専門は膝関節でスポーツ障害全般(特にランニング障害)の治療が得意。 自身もランナーとして活動し、ランニングを始めて一年でサブスリーを達成。自己ベストは第66回別府大分毎日マラソンでの2時間28分57秒。
外来、病棟、手術、日直、当直など通常の業務をこなしながら時間を作ってトレーニングをしている。1981年生まれ、群馬県前橋市出身



怪我防止のための練習と休養のバランス

— これまでランニング障害の症状と原因についてお話を聞かせて頂きましたが、出来れば怪我は避けたいものです。怪我を予防するにはどういうことに気をつければ良いのでしょうか?


細かく見る前に、全体的な話をしたいと思います。まず、どんな症状であれ必ず予兆があると思うんです。別の言い方をすると「違和感」です。ふわっとした言い方かもしれませんが、その違和感に対して真摯に向き合うことですね。



— 前回、怪我を避けたいのなら『栄養・休養・練習』が大切だと仰っていましたよね。具体的にはどういうことでしょうか?


身体を作るのは食事ですよね。運動したらしっかり食べてエネルギーを補給する。これは身体作りの基本です。栄養が大切なのは言うまでもありません。その他に、大きく4つあると思っています。練習と休養のバランス、適切なギア選び、練習メニューの振り返り、そして、フォームの改善の4つです。フォームの改善策につきましては自分なりに色々と学んではいますが、“自己流”であり専門ではないので他に譲るとしまして、残り3つをお話したいと思います。

ランニングで怪我をしないための4大要素



— まず、練習と休養のバランスとは、どういうことでしょうか?


怪我の代表的な要因にオーバートレーニングがあります。いわゆる「やり過ぎ」ですね。違和感を覚えた時に、練習の頻度や強度を見直すことがとても大切です。そして、正しく休養をとることは、怪我防止にはとても重要です。




— 正しく休養をとる?


それを練習と休養のバランスと言い換えてもいいかと思うのですが、例えば、腸脛靭帯炎の場合、地面への踏みこみが強い下りの練習が多くないか振り返ったり、違和感があればストレッチやマッサージを施してみてください。シンスプリントの場合だと、練習量が多いのが大きな要因ですから、練習量を落とすこと、これに尽きるかもしれません。このように、練習と休養のバランスを保つことを意識してもらいたいですね。



— 具体的な練習メニューのアドバイスはありますか?


月間走行距離を一つの基準にしているランナーが多いと思いますけど、「時間走」を取り入れるといいと思いますよ。



— どういうことですか?


月間走行距離って無理しちゃうんですよね。月末になると自分が立てた目標が気になって、頑張って走ろうとしますよね? その時の疲労やメンタルを無視して(笑)。そうじゃなくて、「今日は30分走ろう!」とか「3時間走しよう!」とか、距離じゃなく時間を目安にするといいと思います。やり過ぎを抑制できたり、適度な休養を与えることにも繋がります。疲労やメンタルコントロールとしても有効です。



医師から見た『シューズチェンジ』

— 次は、適切なギア選びについて教えてください


ランナーにとって最も重要なギアはシューズですよね。練習内容や走る環境によって適したシューズを使い分ける「シューズチェンジ」は怪我の予防に繋がる方法の一つだと思います。



— 「シューズチェンジ」には練習内容と練習環境の2つの側面がありますが、諏訪先生流の「シューズチェンジ」はありますか?


「路面の硬さ」「走る距離」「クッション性」の3つの合計が同じになるように考えてシューズ選びをしているところですね。例えば、硬いアスファルトを長い距離走る時、クッション性の高いシューズを選んだり、柔らかめのトラックで短い距離を走るときは薄いシューズを選びます。

「路面の硬さ」「走る距離」「クッション性」の3つのバランスによるシューズ選び



— どんな練習内容にせよ「路面の硬さ」「走る距離」「クッション性」の3つの合計を同じにするというのは、新鮮な気がします。実際に効果はありましたか?


ありますね。それ以前はどんな練習メニューでも同じシューズで走っていましたけど、練習内容によって「シューズチェンジ」を取り入れてからは怪我をしなくなりました。


シューズの違いによる足へのダメージ



— 一方の練習環境の側面ですが、最近はトレイルランニングも流行っていて、ロードとトレイルを併用しているランナーも多くなってきました。走る環境の違いで、怪我予防の観点で効果や対策はありますか?


練習としてトレイルを取り入れることは良いと思います。特に腸腰筋や背柱起立筋といったロードではあまり使わない筋肉を鍛えることで体幹力がついて、身体の”軸”が出来ます。これはロードにも役立ちます。心肺が鍛えられる利点もありますし、ウッドチップを走るのも足裏感覚を養えるので有用です。

路面の違いによる足へのダメージ



— もちろん、走る環境によっても「シューズチェンジ」は必須ですよね?


もちろんです。ぺらぺらの薄いロード用シューズでトレイルを走るのはオススメしません。トレイルは固い岩盤だったり、砂利道だったり、ぬかるみだったりなど不整地のアップダウンが連続しますから、ロードよりも負荷が高く、怪我を招きやすい。適材適所の考えを取り入れて予防してもらいたいですね。



なぜ、「練習日誌」が重要なのか?

— 次は、練習メニューを振り返る重要性についてお聞かせください?


今はテクノロジーが発達して、日々の記録を比較的簡単に残せる環境が整っています。距離やペースだけでなく、栄養の記録やそのとき履いたシューズも心拍の動きも。「違和感」を覚えたとき、無理をしていないか、練習内容が偏っていないか、栄養は取れているかなど残したログを振り返ることは、怪我防止の為に重要です。



— つまり、「練習日誌」をつけることですね?


はい。ノートに書き残すでも、テクノロジーを利用するでも良いので、「練習日誌」を残す習慣をつけるといいと思います。地味な作業ではありますけど、振り返りができることは、ランニング障害の予防にとても役立つと思いますよ。


— 気をつけるポイントはありますか?


出来るだけ情報を残すことです。また、SNSなどでシェアすることで日々のモチベーション維持にしている人も多いと思いますが、あまり競い合わないように、周囲の頑張りに気を取られないようにして欲しいですね。



怪我をしてしまった場合の対策

諏訪ランニングドクターへのインタビュー



— 栄養をしっかりとり、練習と休養のバランスを保ち、適切なギアを選び、練習メニューの振り返りのため日誌をつける。とても大切なのはよくわかりました。でも、どんなに気をつけていても怪我は起きてしまうものです。実際に怪我をしてしまったとき、どう対処したらいいのか教えてください。


医師としては「怪我のないランニングライフを!」とアドバイスをし続けていますが、残念ながら、治療に訪れるランナーが絶えないのが現状です。まず、前提となることが2つあります。怪我をしたら「治す」。そして、もしかしたら2つ目が大切なのかもしれませんが、「再発させない」ことです。



— 「治す」ですが、とりあえず病院に行け!で良いのでしょうか?(笑)


端的に言ってしまうとそうかもしれませんね(笑)。でも、その前に「ランの中止」です。当たり前ですが、怪我をしても(怪我だと分かっても)それでも走っちゃう人がいるんです。


— せっかくの趣味ですから、長く続けたいですよね


その通りですよね。そのためにはまず、走ることを中断して、そして専門医に相談です。早期に治療をすることは、早期の回復に繋がりますし、医療費の削減にも役立つはずです(笑)


— 「再発させない」とは、どういうことですか?


代表的なランニング障害は長引く性格を持っていて、そして“クセ化”してしまう可能性があります。同じ怪我の繰り返しはモチベーション的にも影響を与えますからね。練習内容はどうだったか? 栄養は? 休養は? ギア選びは適切だったか? 振り返りのために練習日誌をつけることのもう一つの意義は「再発防止」なんです。ここは「医師に相談」というよりも「過去の自分と相談」ということになります。



諏訪通久先生が何故2時間半を切れたか

諏訪ランニングドクターへのインタビュー2



— 今のタイムを出すまで相当練習したと思うのですが大きい怪我はなかったんですか?


短期間で2時間半を切ることができたのは、たくさんの距離を走り込み、強度の高い練習をしてきた結果だと思いますが、それと同時に脚には当然かなりの負担がかかっていたのだと思います。
私は陸上経験が皆無でしたので、本を読んだりインターネットで調べたりしながら色々な練習方法を試行錯誤しました。
時には実業団ランナーや元オリンピック選手の監督やコーチにアドバイスを頂きながら大きな故障もなく記録を更新してきましたが、もともと右のヒラメ筋が弱く、左右バランスが悪いことを自覚しており、それにより負担のかかるアキレス腱には違和感がありました。
練習も支障なくこなせて、走れてしまうくらいのものでしたので正直あまり気にしていませんでした。
様々な取材を通じて、“故障に至る前に違和感のある段階で無理をしないということが大事である”と強調してきたこともあり、自分でエコー検査をしてみましたら、予想通りにアキレス腱の質が悪くなっていました。 このまま今までと同じ強度の練習を継続していたらいつかはアキレス腱が切れていたかもしれないと思い、ぞっとした経験があります。
弱点を克服するよう重点的に筋力トレーニングやストレッチを行った結果、アンバランスが修正され、アキレス腱の状態も見ても左右差がなくなりました。

色々と気をつけて注意をしていても起こってしまうランニング障害はとても厄介です。
怪我を抱えていて走れないとストレスがたまりますが、その状態でも自転車や水泳など走ること以外にできるトレーニングもあります。
中途半端な治療は長期離脱につながる可能性が高いですので、急がず慌てずじっくりと治療するのがいいと思います。
様々なランニング障害を経験しながらも色々なリハビリで克服してきた自身の実体験を生かして、故障したランナーの気持ちを深く理解し適切なアドバイスのできるドクターランナーになりたいですね。



インタビュアーあとがき

ランニングは怪我がつきものだと考えるランナーもいますが、出来れば怪我はしたくないものです。ランニング障害の基礎知識を身につけ、「やり過ぎ」に注意することもランナー必須のスキル。栄養、練習と休養、ギア選び、そして、見落としがちなのが「振り返り」です。レースに向けて今日のランと先のことばかりに目を奪われがちですが、怪我の予防のためにも「振り返り」を取り入れる重要性には目から鱗が落ちた人もいたのではないでしょうか。もし怪我をしたら早期に治療して、“クセ化”を防ぎましょう。


(インタビュアー:山田 洋)

 以下の記事も参考にどうぞ。


取材協力:榛名荘病院

群馬県榛名山の南麓にある豊かな自然に囲まれた地域包括医療を担う病院。一般外傷から脊椎手術、膝・肩関節鏡手術など地域の患者様の様々なニーズに対応しています。また充実したリハビリテーションを提供し、患者様の社会復帰を支援します。

住所:群馬県高崎市中室田町5989
TEL:027-374-1135

榛名荘病院

山田 洋

スポーツジャーナリスト

アスリートだけでなく経営者など幅広いインタビューを数多くこなす。また、ロードからトレイル、ウルトラも走る市民ランナーでもある。

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